アイドルはご機嫌ななめ

         789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


例年の年中行事でいうならば、
衣替えの次にやって来るのが梅雨であり。
GWのあと、
そのまま夏になっちゃうんじゃないかというほどの暑い数日があってのち、
やっと堂々と半袖を着てもいいよとなった途端、
何故だか、カーディガンが要るような気温になるのも いつものことならば。
一応の梅雨入りが発表されても、
そのまま長雨がやって来るのは、こちらもまた毎年のことながら意外と稀で。
七月に入り、ああもうすぐ夏休みだなんてワクワクする頃や、
体育の授業が水泳になるころに。
やっべ、あんまり降ってねぇやと焦ってのこと、(誰が?)苦笑
長雨に匹敵するように帳尻を合わせるがごとく、
大雨になる…というのが、ここ最近の“梅雨”だったような。

 「今年は前倒しになったんで尚のこと、
  空梅雨か?なんてな印象になってるだけだと思うよ?」

 「……。(そっか。)」

 「そも、梅雨入り発表されたの、早すぎたんじゃないの?」

 「どうだろねぇ。」

気圧配置とか太平洋高気圧の位置だとかを、
これまでのデータっていう、
いわゆるセオリーに当てはめて割り出したのだろうから、

 「その筋の方々へ“間違ってたんじゃあ?”と訊くのは酷だと思う。」

お話に出て来た“衣替え”でセーラー服が待望の半袖になって、
初日こそやや肌寒かったものの、
その後はあんまりカーディガンが要りようにもならぬまま。
何より、雨も降らないまんまで、
五月に引き続く暑さが絶好調なのはどうしてだろね?と。
かわいらしい小物や夏の流行アイテムは?といったお洒落のことや、
新作スィーツのお店や面白いプレイスポットの情報とか、
お年頃の女子高生ならまずはそっちでしょという枠から大きに外れた代物。
ともすりゃ 分別臭い大人の持ち出しそうな、
昨今の気まぐれすぎるお天気について…なんてお話を。
いつもの指定席、スズカケの樹の下の芝生の上にてお弁当を広げつつ、
ああだこうだと展開していた三人娘。
美少女揃いのこちら様でも 特に注目株とされておいでの、
白百合、紅ばら、ヒナゲシという、
通称“三華”と呼ばれし、お嬢様がただったりし。

 「中間考査も終わって、ちょいと間延びする頃合いですよね。」

そういうすったもんだが落ち着いた直後なだけに、
一夜漬けに頭のキャパをほぼ占拠されていての、情報が足りなくての、
已なく当たり障りのないことを俎上に載せていた…という訳でもなくて。

 「こないだっからヘイさんが参加してるゼミって、
  そういう気象関係の演算の助っ人さんなんだ。」
 「そういうところですかね。」
 「でも、数字じゃなかった?」
 「そういうところですかね。」

何だか漫才みたいなやり取りになっちゃっているけれど。
大判の焼きのりでぐるんとくるまれた大きめのおむすび、
うふふvvと幸せそうに両手で抱えた、
さらっさらの手触りが自慢の赤毛のお嬢さん。
これでも、大学院の専門研究チームに、
どうかお願いと懇願されて、
演算班やデータチェック班へと招聘されてる存在で。
工学畑のこれからを背負う有能な顔触れから、
熾天使だの守護女神だのと呼ばれておいでというから半端ない。
一見畑違いなようだが、
気象と工学も案外と関係あるというか、伝手は無限に関わり合っているようで、
現象のメカニズム解析のためのデータ処理にあたっての、

 「まま“猫の手”として駆り出されたというところかと。」

またまた そんなご謙遜を。

 「試験中はそっちもお休みだったんでしょう?」
 「ええ。」

さすがに、本道の勉強は優先させてもらっているけれど、

 “ですが、
  ケータイやメールの履歴はガンガンに埋まりっ放しでしたけど。”

チラ見しただけでも、早く復帰してという内容が大半だったし、
それに、気持ちは判ると平八自身も思うよな、
汲めども尽きぬ好奇心を煽られてやまぬお題目への取り組みなので。
ひなげしさん自身も、テストが終わって
やれやれやっとそっちに馳せ参じることが出来るという想いもひとしおなんだとか。

 「こういうのも“リア充”って言うんでしょかね。」
 「言うんじゃない?」

だってヘイさんたら、凄っごい楽しそうだし♪と、
今日のお弁当はのり巻きだった白百合さんが、
濃いめの緑茶片手にくすすと微笑い。
そのお隣では、

 「……vv(頷、頷♪)」
 「おや、久蔵殿もそう思われますか?」

だってと、赤い双眸を細めておいでの紅ばらさんが
無添加ウィンナーを刺したまんまのウサちゃんフォークで真っ直ぐ指差したのは、
小ぶりの行李タイプだった平八のお弁当箱。
ひなげしさんの柔らかそうなお鼻から下が
楽勝で隠れてしまうほど大きいおむすびが収まっていたお弁当箱だが、

 「そいや、いつもより一回り大きいですよね。」
 「う…バレてましたか。」

あはは・参ったなぁとあっけらかんと笑った彼女のみならず、
七郎次は剣道部門の高校総体への代表決定戦でもある都大会に向けて、
中断されてた練習への再開で、ワクワクと忙しい身だし。
久蔵は久蔵で、所属するバレエ団の夏公演に参加を予定しておいで。
そろそろ演出・構成ともに固まっての、稽古も本格化しつつあり、
そちらさんも…一見しただけでは判りにくいものの
これでも忙しいのが、でも微妙に嬉しい、
ワクテカが止まらない状態にあるらしい。
選りにも選ってお天気業界からのオファーに、
やれやれ困ったもんだという言いようをしつつ、
でもと やっぱり微笑っておいでのひなげしさん。
いつもより二割増しになってたお弁当をペロリと平らげると、

 「やはり、判りやすい状況ってのが響いたんですかねぇ。」

そんな言いようをし出したものだから、

 「?? 何のお話です?」

思い出し笑いつきだったこともあり、
その助っ人の話とは別口らしい何かのようと察し、
とはいえ、中身までは判んないよぉと、小首を傾げつつ七郎次が尋ねる。
それへ“えへへぇvv”と、今度は微妙に悪戯っぽく微笑った平八が続けたのが、


 「え〜? CMに出ないかってスカウトされたぁ?」


それも、学校帰りの制服姿だったところを…とは、

 「大した度胸というか、
  あんまり物慣れてないテレビ関係者みたいですね、そりゃ。」

呆れたというお声になった七郎次の言いようへ、

 「みたいですよね。」

平八もまた“まったくだ”と、ともすりゃあ他人ごとのように苦笑するばかり。
というのも、
くどいようだが、何と言っても都内屈指のお嬢様学園に通う彼女らであり。
野球部が強くて甲子園への常連だったり、
サッカーで有名、ラグビーで有名だという高校ほどではないけれど、
国民的アイドルが所属する某プロダクションや、
個性的な芸人さんたちを多く輩出している某養成所とならば、
何とか並べるんじゃないかというほどには、一般への知名度もあるようで。

 「人を“御当地ゆるキャラ”みたいに言いますか。」
 「……。(頷、頷、怒)」

そこまで言うとりゃせんですが。
それに、どっちかというと“御当地ヒーロ…うにゃむにゃ(笑)

 「でもでも、
  当人への面識はなくたって、
  このセーラー服を着ていたヘイさんへ、
  しかもここの沿線上のQ街という条件が揃っていて、
  なのにその手の声かけをするなんて。」

あまりに無謀で、
物知らずとの謗(そし)りを受けるを免れ得なかろと。
ちょいと小難しい指摘をしちゃった白百合さんだったのへ、

 「メディア関係者の間にも暗黙の了解があるはずですのにねぇ。」

平八本人も、そんな言いようを持ち出すほど。
だって、例えばと通り一遍に括るにはあまりに高い確率で、
政財界の要人や大立者の令嬢である場合も大きにあるがため。
うっかりと高貴なお人に声かけて、
将来も上つ方社会へ進む予定のウチのお嬢に何て失礼な、
それは一体どこの市井メーカーだとご家族が憤怒した末に、
会社の存亡まで揺るがすような事態になったらどうするのだろうか。

 「そこまで…。」

言うかと、他でもない紅ばらさんに呆れられてしまいました。(苦笑)

 「でも、選りにも選って、
  ライバル社の社長のお嬢さんだったら目も当てられませんしね。」

 「いや、そこはさすがに調べもしましょうが。」

そこまで のほほんとしたスカウトマンもあるまいてと、
すっかりネタ扱いでそんなことを言い出す平八へ、
今度は七郎次が苦笑をする。

  とはいえ

登下校中の彼女らへの声掛けは さすがに無謀だが、
制服という防御アイテムのない、普段着姿の彼女らへとなると、
条件づけも多少は違ってくるのではなかろうか。
全員が要人クラスのお宅の令嬢ではないけれど、
少なからず恵まれたお育ちの娘さんばかりであるがゆえ。
曇りなき瞳の、そりゃあ繊細だったり朗らかだったりと、
心豊かでお手入れも行き届いた、飛びっきりに極上のお嬢さんばかり。
ゆえに、その綺羅らかな風貌や印象へは、
誰もが眸を奪われ、気を惹かれ、注目してしまうというもので。
こちらのお三人さんも例外ではなく、
お買い物やお散歩がてら 街へ遊びに出るたびに、
何かしらの意図はないけれどとしつつも
通りすがりの皆様へ、魅惑という名の萌え魔法を掛けて回っていたりする、
ある意味、小悪魔さんでもあるのだろうに。

 「ナンパですか? そういうのは……まあ、ねえ?」
 「そういう度胸がある殿方も、そういや減りましたねぇ。」

あ、そかそか。皆様の足場、Q街じゃあ、
救世主としてのお顔のほうが徐々に広まっているものか、
滅多なことじゃあナンパのお声もかからぬと?

 「放っといて下さいませ。」

こんな言いようを飛ばされたって、
今更怒ったり焦ったりしないところがまた、
しょむないナンパなんて寄せ付けない、貫禄なんでしょうかね。

 「でもまあ、他のお嬢さんがたにしたって、
  そうそう ひょいひょいと“街ぶら”してもないでしょし。」

 「………。(頷、頷)」

久蔵殿が バレエとホテルJでの花束贈呈係で忙しいように、
アタシが 父様のモデルや画壇関係の集いや何やかやに引っ張り出されて
以下同文だったりするように。
皆さんもそれなりに親御さんの事情がらみでお忙しいから、
プライベートな出先で同い年の男子と接する機会なんて少ないですし、

 「ヘイさんだって、色んな大学のゼミだの研究室だのへ招かれてて、
  時には幾つもを一度に掛けもってたりして忙しいのでしょう?」

 「ま、ぶっちゃけ そうですね。」

並列処理の高速化とか極めたいですし、
今回みたく、他の研究なさってる方々から、
演算の助っ人にって呼ばれることもありますしと。
新作スィーツやファストファッションのお話以上に楽しいものか、
明るい色合いの双眸を仄かに潤ませるほど、わくわくしながら話す辺り。

 男女交際じゃアバンチュールじゃには あんまり関心もないし、
 それへと時間を割きたくなるほど、魅力も感じないというか…と。

そこでお顔を見合わせ、
何の作為もなしの、揃って苦笑してしまわれるところが、
同世代の女子にはなかなか見られない達観であり。
他のお友達と違い、
大人びておいでとか落ち着きがあるとか、
頼もしがられる由縁だったりもするのだろう。

  も一つ忘れちゃいけないのが

こちらの三華様たちの場合、既に心に決めた人もいるお立場でもあり。
さすがに公言まではしちゃあいないが、
どちらの“いい人”さんも、
前世から続く宿縁なんていう、運命的なお相手でもあるがゆえ、
今更 他の殿方に惹かれるなんてこたあ まあないだろうという
安定のガチモードになっておいでなので。
どんな熱視線も、はたまた“こっち向いて”という口笛も、
御心の琴線へはまずは届きはしないまま。
ナンパ? 男子からの目線? それがどうかしましたか?と、
いたって平静でいられるというワケで。
まったくもって、罪な小鳥ちゃんたちなんだから、もうっ。

 「何か変なもん食べたんだろうか、もーりんさん。」
 「あがぺーとか言い出すぞ、そのうち。」

……それこそ放っといて。(笑)









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  *うあ、結局本題へ入れなんだぞ。
   どんだけ無駄話が好きなおばさんか、ですね。(う〜ん)
   さて、ヘイさんに降ってかかったスカウト話って一体?


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